スポーツにおいて、下半身の筋力は大事ですよね。
でも、この筋力はどのように測ったらよいのでしょうか?
病院や大学の研究室に行けば、高価な筋力測定器があるので、正確な筋力を測ることは可能ですが、なかなかプロでもない限り、簡単に測ることもできないですよね。
実際にプロの現場にいましたが、測定しやすい環境だったにもかかわらず、測定できる場所が1時間かけて行かないと測定できなかったので、なかなか気軽に筋力測定というわけにはいかないというのが実情でした。
Jリーグのクラブによっては、クラブハウスに筋力測定器が設置されているところもあり、そのようなクラブだと気軽に測定できますが、それはまだ限られたクラブだけです。
したがって、今回は現場でも測定可能な下肢の筋力測定の方法について、ご紹介します!
現場でできる筋力の測り方
現場でできる筋力の測り方は、ずばり!「立ち上がりテスト」です。
そう、普段皆さんが行っている立ち上がりでだいたいの筋力を測れるんです。
具体的には、10cm刻みの台を用いて、40cm、30cm、20cm、10cmのそれぞれの高さから両脚もしくは片脚で手を使わずに下肢の筋力で立ち上がれるかどうかで筋力を推定します。
このような台です ↓
40cmの台から両脚で立ち上がるというのが一番負荷が軽く、10cmの台から片脚で立ち上がるというのが一番負荷が高く、筋力がないとできません。
体重支持指数
ここで一つ前提として知っておいてほしいこととして、体重支持指数(WBI:Weight Bearing Index)というものがあります。
このWBIとは、黄川・山本らが開発したもので、等尺性膝伸展筋力を体重比で示した指標のことを言います。
要は膝を伸ばす筋力を体重で割った数値のことです。
高価な機器を使って出したWBIという指標ですが、これをさらに臨床現場で簡便にWBIを推定する目的で開発されたのが「立ち上がりテスト」です。
142名の患者さんを対象に立ち上がりテストとWBIの関係について調査した結果が以下の表のとおりとなっています。
条件 | WBI推定値 | 目安 |
両脚20cm | 0.45 | 平地歩行 |
片脚40cm | 0.60 | ジョギング |
片脚20cm | 0.90 | ダッシュ |
片脚10cm | 1.0 | ジャンプ |
村永信吾. シンポジウム20 WBIを推定するための「立ち上がりテスト」の開発経緯.体力科学. 2021年70巻 第1号 p.76
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspfsm/70/1/70_76/_article/-char/ja/
WBIと立ち上がりテストの関係
立ち上がりテストがWBIという指標と関係しているというのはわかるけど、どう解釈すればいいのか、がまだよくわかりませんよね。
次に、WBIの数値と実際の動作レベルの関係性について、説明します。
平地歩行、階段歩行、ジョギング、ダッシュ、ジャンプなどの各動作に必要なWBI指標が示されています。
つまり、平地歩行には0.4程度、ジョギングには0.6程度、ダッシュは0.8以上の数値が必要ということです。ハイレベルなプレーをするには、1.2を上回る数値が望ましいとされています。
これは、怪我後のリハビリにも使えますね。
WBIで1.2は立ち上がりテストでは測れないので、10cmの座面から楽に片脚で立ち上がれるくらいの筋力が必要ということになります。
仁賀定雄.膝関節の筋力.アイソキネティックマシンの利用.計測と制御 1992年 第31巻 3号 383-390
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sicejl1962/31/3/31_3_383/_pdf/-char/ja
10cm台から片脚で立ち上がるために必要な能力とは
では、実際に筋力が十分にあれば、10cm台から片脚で立ち上がりが可能なのでしょうか。
実際は筋力だけではダメなようです。
座面高10cmからの片脚立ち上がりが出来るための要因を調査するために、20cmからの片脚立ち上がりまでが可能だった人たちと10cmからの立ち上がりが可能だった人たちを比べて、何が関連していたのかを調べた研究があります。
その結果、下肢筋力に加えて、足首の背屈角度と閉眼片脚バランス能力が優れていたということがわかりました。
したがって、10cm台からの片脚立ち上がりテストが可能かどうかは、下肢筋力、足関節背屈可動域、片脚バランス能力が関連しているため、筋力だけを鍛えるのではなく、可動性やバランス能力のトレーニングも忘れずに行うようにしましょう。
高橋裕子、中川和昌.若年サッカー選手における片脚立ち上がりテストに関わる要因の検討.理学療法科学.33(1):25-28, 2018
https://www.jstage.jst.go.jp/article/rika/33/1/33_25/_pdf
膝前十字靭帯(ACL)再建術後のリハビリメニューとしても有効
今度は立ち上がりテストを、筋力測定だけでなく、トレーニングとしても使えないかということを調べたものがあります。
片脚立ち上がりがセルフエクササイズとして利用できるか調べようということで、ACL術後のリハビリでセルフエクササイズとして、片脚立ち上がりを追加して、その効果を見た研究があります。
ACL術後3ヵ月目から30cm台からの片脚立ち上がりエクササイズを1か月ごとに10cmずつ台の高さを低くしていき、毎日50回実施させました。
普通にACLのリハビリの流れ(プロトコル)で行った人たちと比べて、片脚立ち上がりをセルフエクササイズとして追加で行った人たちの方が、膝伸展・屈曲筋力が高かったという結果でした。
低い台からの立ち上がり動作では、膝を深い屈曲角度から膝関節を伸展させるため、非常に強い大腿四頭筋の筋力が必要になります。
と同時に、股関節の強い伸展筋力も必要となるため、股関節伸展筋である大殿筋とハムストリングスの筋力も鍛えられた結果、このような結果になったと考えられています。
上池浩一他.膝前十字靭帯再建術後における膝関節筋力、下肢運動機能の回復に対する片脚立ち上がりエクササイズの有効性.日本臨床スポーツ医学会誌:Vol.29 No.2, 2021. 164-171.
実際に立ち上がり動作はスクワットに似ているので、下半身全体を鍛えることができて、さらに筋力の目安としても利用できるので、現場でも活用しやすいトレーニングだと言えます。
まとめ
いかがでしたか。
ただ闇雲に筋トレをするのではなく、何かしら指標があれば参考にしてトレーニングのモチベーションも上がりますよね。
さて、今回の内容をまとめると、
現場でも、「立ち上がりテスト」を使えば下半身の筋力測定が可能です。
WBIという指標を用いて、立ち上がりテストの結を解釈し、筋力の目安として利用するだけでなく、怪我後のリハビリテーションの動作開始や復帰の基準としても利用できます。
10cm台からの立ち上がりには、下肢筋力だけではなく、足首の可動性や片脚バランス能力も必要です。
片脚立ち上がりをエクササイズとして、毎日50回行うと膝伸展筋力だけでなく、膝屈曲筋力も鍛えることができます。
という内容でした。
少しでも参考になれば幸いです。
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